【遺留分】「一人の子に不動産を継がせたい」が招く、家族の亀裂と解決策

2026年05月26日

この家と土地は、長男に全部継がせたい。次男には現金を残しておくから…

そう決めていたにもかかわらず、相続が発生した途端に兄弟間の話し合いが紛糾し、当事務所にご相談にいらっしゃるご家族は少なくありません。親の遺志を尊重したいという思いと、自分の権利を主張したいという思い。どちらも間違いではありませんが、「遺留分」という法律上の権利を正しく理解しておかないと、家族関係に深刻な亀裂が生じるリスクがあります。

東京・日本橋を拠点に相続税申告と不動産税務を専門とする税理士として、「一人に継がせたい」という想いを実現しながら、家族の絆も守るための方法をお伝えします。

💡30秒でわかる!この記事のポイント

  • ・「遺言があれば安心」の盲点:
    たとえ「全財産を長男に」という遺言があっても、他のお子さまには法律で保障された最低限の権利「遺留分」があります。
    ・不動産を継ぐ人に迫る「現金手当」の危機:
    法律改正により遺留分は「金銭での支払い」に一本化されたため、不動産を継いだ人は多額のキャッシュを要求されます。
    ・不動産評価の「時価 vs 路線価」の罠:
    相続税よりも高額な「時価」を基準に請求されるため、納税後に想定外の現金が必要になるダブルパンチのリスクがあります。
    ・税理士ならではの円満解決策:
    生命保険の活用や事前試算、タイトな期限がある「相続税申告」との連動まで見据えた対策を解説します。

 

1.「遺留分」とは何か:法律が守る最低限の相続分

1.1 遺言があっても覆せる権利

遺留分とは、法律が一定の相続人に対して保障する「最低限の相続分」です。たとえ被相続人(故人)が「全財産を長男に」という遺言を残していたとしても、他の相続人はこの遺留分を請求する権利を持っています。「遺言があれば安心」と思っていた方にとっては、意外な盲点となるポイントです。

1.2 遺留分の割合:誰が・いくら持っているのか

遺留分が認められるのは、配偶者・子(およびその代襲者)・直系尊属(父母・祖父母)です。兄弟姉妹には遺留分がありません。遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみの場合は法定相続分の3分の1、それ以外(配偶者・子など)は法定相続分の2分の1です。例えば、子が2人いる場合、それぞれの遺留分は「法定相続分(2分の1)×遺留分割合(2分の1)=4分の1」となります。

1.3 遺留分侵害額請求とは

自分の遺留分を侵害された相続人は、遺留分を超えて財産を取得した相続人に対して、侵害された金額相当の金銭を請求することができます。これを「遺留分侵害額請求」といいます(令和元年の民法改正により、現物返還から金銭請求に一本化されました)。この請求は、相続開始および遺留分の侵害を知った時から1年以内に行う必要があります。

 

2. 不動産相続で遺留分が問題になりやすい理由

2.1 不動産は「分けにくい」財産

現金や預金であれば、遺留分相当額をそのまま渡すことができます。しかし、不動産を一人に継がせた場合、遺留分侵害額請求を受けた側は「現金で支払う」必要が生じます。不動産を売りたくないのに、請求に応じるための現金が手元にない、こうした状況が、相続人間の深刻な対立を招くことになります。

2.2 不動産の評価をめぐる争い(時価 vs 路線価の罠)

遺留分の計算には、不動産の評価額が基準になります。ところが、不動産の評価は相続税評価額(路線価ベース)と時価(実勢価格)で乖離が生じることが多く、「どちらを基準にするか」で遺留分の金額が大きく変わります。実務上、遺留分算定の基準は時価(実勢価格)となるため、相続税の申告で使う路線価より高い金額での計算を求められるケースが少なくありません。

つまり、「国に納める相続税は路線価ベースで低く抑えて計算したのに、遺留分の請求はそれより高い時価ベースで届く」ということになります。相続税を支払った後、さらにそれを上回る想定外の現金請求が親族から届くというダブルパンチになりかねないのが、不動産遺留分の本当の怖さです。

2.3 生前贈与も遺留分の計算対象になる

見落としがちなのが、生前贈与です。相続開始前10年以内に行われた相続人への贈与は、遺留分の計算に算入されます(第三者への贈与は1年以内)。「生前に不動産を贈与しておけば遺留分対策になる」と考える方もいますが、10年以内の贈与は対策にならないどころか、かえってトラブルの火種になることもあります。

 

3. 実際にあった遺留分トラブルの事例

3.1 遺言どおりに継いだのに、多額の現金請求を受けたケース

都内に自宅と賃貸アパートを所有していたBさんが亡くなりました。遺言には「全財産を長男に相続させる」と記されており、長男はその通り不動産を取得しました。

ところが半年後、次男から遺留分侵害額請求書が届きます。不動産の時価評価をもとに計算された遺留分は約1,500万円。長男は現金の手持ちが少なく、アパートを売却するか、金融機関から借り入れるかという選択を迫られました。「遺言さえあれば大丈夫だと思っていた」という長男さまの言葉が、印象に残っています。

3.2 事前の話し合いで円満解決できたケース

一方、事前にご相談いただいたCさんのケースでは、異なる結果になりました。「長女に自宅を継がせたいが、長男への配慮も必要」というご要望に対し、生命保険の活用と遺言の組み合わせをご提案しました。長男を生命保険の受取人に指定することで遺留分相当額の現金を準備し、長女は不動産を単独で取得。相続発生後も兄妹の関係は良好なままです。準備の有無が、結果を大きく左右した事例です。

 

4. 「一人に継がせたい」を実現するための4つの対策

4.1 遺留分を考慮した遺言の作成

遺言を作成する際は、遺留分侵害が生じないよう財産全体を把握したうえで設計することが重要です。不動産を特定の相続人に取得させる場合は、他の相続人の遺留分相当額を預貯金や有価証券で手当てできるか確認しておく必要があります。また、付言事項(遺言書の末尾に記す故人の想い)を丁寧に書くことで、遺留分請求そのものを思いとどまらせる効果を期待できる場合もあります。

4.2 生命保険の活用

生命保険金は、原則として遺産分割の対象外であり、受取人固有の財産となります。不動産を取得しない相続人を生命保険の受取人に指定することで、遺留分相当額の現金を準備するという方法は、実務でよく活用される対策の一つです。ただし、保険金額が著しく多い場合は「特別受益」として問題になる可能性もあるため、専門家と設計することが重要です。

4.3 遺留分の事前放棄

相続開始前であっても、家庭裁判所の許可を得ることで、相続人が遺留分を放棄することが可能です(民法第1049条)。ただし、これは相続人本人の自由意思によるものでなければならず、強制や誘導があった場合は無効となります。また、許可が下りるかどうかは裁判所の判断に委ねられるため、確実な方法とは言えません。あくまで選択肢の一つとして理解しておくことが重要です。

4.4 家族全員での事前合意(家族会議)

法的な手続きではありませんが、最も効果的な対策の一つが、生前に家族全員で話し合い、相続の方針について合意を形成しておくことです。「なぜ長男(または長女)に継がせたいのか」という理由を親自身の言葉で伝えることで、他の相続人の納得感が高まり、遺留分請求に至るリスクを大幅に下げることができます。当事務所では、こうした家族会議のファシリテーション支援も行っています。

 

5. 遺留分問題は「相続税申告」とセットで考える

遺留分侵害額請求があった場合、相続税の申告にも多大な影響が生じます。不動産を取得した相続人は当初の申告通り相続税を納付しますが、後に遺留分を支払った場合には更正の請求(払いすぎた税金の還付申請)が可能です。逆に、遺留分を受け取った側は、受取金額に応じて相続税の修正申告が必要になります。

※実務上の重要期限:遺留分を支払った後に税金を取り戻す「更正の請求」には、「遺留分の支払いが確定したことを知った日の翌日から4か月以内」という非常にタイトな期限が設けられています。法的な合意が成立した直後から一刻も早い手続きが必要となるため、事前の税務シミュレーションとスケジュール管理が不可欠です。

こうした税務上の手続きは申告期限との兼ね合いもあり、遺留分の問題は相続税の専門家と連携して対応することが不可欠です。「遺留分は弁護士の問題」と切り離して考えるのではなく、税理士と弁護士が密に連携して対応にあたることで、最善の結果を導くことができます。

 

📌 不動産の遺留分に関するよくある質問(Q&A)

Q. 「長男に全財産を譲る」という遺言があれば、次男から文句を言われても、不動産の名義変更はすぐにできますか?

A. はい、遺言書があれば法律上、長男さまへの単独名義変更の手続き自体は進めることができます。ただし、名義変更が終わったからといって安心はできません。法律改正により遺留分は「不動産の取り戻し」ではなく「金銭の請求」に変わったため、名義変更の後に、次男さまから「数百万円〜数千万円の現金を支払え」という請求(遺留分侵害額請求)が届くことになります。結局、支払いのために不動産を手放さざるを得なくなるケースもあるため、名義変更の前に事前の対策が必要です。

Q. 遺留分の請求が届いてから、税金を減額してもらう手続き(更正の請求)を税理士に依頼しても間に合いますか?

A. 手続き自体は間に合いますが、非常にタイトなスケジュールになります。遺留分の支払いが確定したことを知った翌日から「4か月以内」に手続きを終えなければ、払いすぎた税金を取り戻す権利が消滅してしまいます。また、あらかじめ「遺留分をいくら支払うと、相続税がいくら戻ってくるか」を試算しておかないと、次男さまとの示談交渉での手元資金の計画が立ちません。請求が届いた段階、あるいはできれば相続が発生した直後に税理士へご相談いただくのが確実です。

 

まとめ|「想いを継ぐ」ために、準備を怠らない

「一人の子に不動産を継がせたい」という想いは、決して間違いではありません。しかし、法律上の遺留分という壁を知らずに進めると、親の遺志を実現しようとした子が、兄弟から多額の請求を受けるという事態を招きます。

大切なのは、目先の「1/2ずつ」という数字の平等ではなく、ご家族が10年後も20年後も笑顔でいられる「笑顔の平等」を設計することです。遺言・生命保険・家族会議を組み合わせ、時価評価のギャップや税務上の重要期限までを見据えて遺留分リスクを最小化しながら、次の世代へ想いを繋いでいく。それが、私の提唱する「繋ぐ相続」の形です。

遺留分の問題は、相続が発生してからでは取れる選択肢が大きく限られます。「まだ先の話」と思っていても、早めにご相談いただくことで、家族の絆を守りながら最善の対策を講じることができます。ご家族の未来のために、ぜひ一度お話をお聞かせください。

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【ご案内と免責事項】

本記事の内容は、執筆時点の法令・通達に基づいた一般的な情報提供を目的としております。

実際の相続においては、個別の事案(財産構成、親族関係、特例の適用要件等)により、税務判断や最適な対策は大きく異なります。

記事の内容には万全を期しておりますが、掲載情報の利用によって生じた損害等について、当事務所は一切の責任を負いかねます。

具体的な判断にあたっては、必ず事前に当事務所、またはお近くの専門家にご相談ください。

この記事を担当した税理士

宮本志穂税理士事務所

宮本志穂

保有資格
税理士試験官報合格:簿記論・財務諸表論・法人税法・所得税法・相続税法、宅建士

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