【共同名義の落とし穴】『兄弟で仲良く半分ずつ』―その選択が、10年後に招くこと

2026年05月26日

まさか、売れなくなるとは思っていませんでした…

都内に収益マンションをお持ちのご兄弟から、そんな言葉を聞いたのは、ご相談にいらして間もなくのことでした。お父さまが亡くなり、相続時に「平等に」と共有名義にしたその物件は、兄が売却を望んでも、弟が反対すれば身動きが取れません。話し合いは平行線をたどり、気づけば10年が経過していました。

相続税申告と不動産税務を専門とする税理士として、こうしたご相談を数多く受けてきました。「平等に分けたい」という善意が、なぜ次の世代の大きな負担になるのか。本稿では、共有名義が持つ本質的なリスクと、「繋ぐ相続」の視点から考える解決策をお伝えします。

💡30秒でわかる!この記事のポイント

  • ・「とりあえず共有名義」は最大の罠:売却や建て替えには共有者全員の合意が必要なため、将来身動きが取れなくなります。
    ・認知症による「資産凍結」リスク:共有者の1人が判断能力を失うと、成年後見人を立てない限り一切の処分・修繕ができなくなります。
    ・二次相続で権利者が倍増:放置すると世代交代で権利者が増え、見知らぬ親戚との共有状態になるリスクがあります。
    ・「将来の安心」を設計する3つの解決策:代償分割・換価分割・家族信託など、共有を未然に防ぐプロの選択肢を解説します。

 

1. 「とりあえず共有」が生まれる、よくある背景

1.1 なぜ相続人は共有を選びがちなのか

遺産分割協議の場において、不動産の扱いは往々にして難航します。現金や有価証券と異なり、不動産は簡単に切り分けることができません。「誰か一人が取得すると不公平になる」「売却すると思い出の家がなくなる」「今すぐ決めるのは難しい」――こうした事情が重なり、「ひとまず共有にしておこう」という選択がなされるケースが非常に多く見受けられます。

1.2 「平等=共有」という思い込みの危うさ

「半分ずつにすれば平等」というのは、一見正しいように見えます。しかし、共有名義とは「物件全体に対してそれぞれが持分を持つ」状態であり、各自が自由に使えるわけではありません。売却・賃貸・建て替えのいずれも、原則として共有者全員の合意が必要です。「平等に分けた」つもりが、実際には「誰も自由に動かせない状態を作った」に等しいのです。

 

2. 共有名義が招く5つの深刻なリスク

2.1 売りたくても売れない:全員合意の壁

不動産全体を売却するためには、共有者全員の同意が必要です。一人でも反対すれば、売却は事実上不可能になります。ライフステージの変化(転勤・離婚・資金需要など)で「今すぐ売りたい」という状況が生じても、相手の事情や意向次第で身動きが取れなくなります。これが、共有名義の最も根本的なリスクです。

2.2 建て替え・リフォームが身動き取れなくなる

建て替えや大規模修繕も、共有者の持分割合による多数決(過半数)または全員合意が必要になります。築年数が経過して修繕が急務になっても、「費用を出したくない」「取り壊したくない」という意見が一人でもあれば、対応が滞ります。収益物件であれば、入居者への影響も生じかねません。

2.3 認知症による「資産凍結」や、二次相続による権利の複雑化

共有名義のまま時間が経過することのリスクは、決して「どちらかが亡くなったとき」だけではありません。「ご存命ではあるものの、認知症などで判断能力が低下(喪失)してしまった」というケースも、合意形成を不可能にする非常に深刻な要因です。

不動産の売却や大規模修繕には、共有者全員の有効な意思表示(意思能力)が必要です。もし一人でも判断能力を失ってしまうと、原則として成年後見人を選任しない限り、売却や契約行為は一切できなくなり、大切な資産が完全に「凍結」されてしまいます。

また、共有者自身が亡くなった場合には、その持分が配偶者や子などの相続人に引き継がれます。最初は兄弟2人だった共有関係が、世代を経るごとに権利者が増え続け、10年後・20年後には「見知らぬ親戚」や「会ったこともない甥・姪」との共有状態になることも珍しくありません。関係者が増え、さらに高齢化が進むほど、合意形成は絶望的に困難になります。

2.4 賃料収入の分配トラブル

収益物件の場合、家賃収入は持分割合に応じて各共有者に帰属します。それぞれが確定申告を行う必要があり、管理費の負担や修繕費の按分をめぐってトラブルが生じることも少なくありません。また、一方が家賃収入の受け取りを拒否したり、管理会社との契約更新に同意しなかったりするケースも実際に起きています。

2.5 共有持分の「見知らぬ第三者への売却」リスク

あまり知られていませんが、共有持分は他の共有者の同意なしに、第三者へ売却することが法律上可能です。関係が悪化した共有者が持分を不動業者に売却してしまうと、突然「見知らぬ業者」と共有状態になる事態も起こりえます。こうなると、残された共有者は非常に不利な状況に追い込まれます。

3. 実際にあった共有名義トラブルの事例

3.1 意見が割れ、10年間売却できなかったケース

都内に収益マンション(1棟)をお持ちだったAさまが亡くなり、長男・次男がそれぞれ2分の1の持分を相続しました。相続時点では兄弟仲も良く、「とりあえず共有で」と遺産分割協議を終えました。

ところが5年後、長男が転居を機に「売却して現金化したい」と申し出ると、次男は「思い入れのある物件を手放したくない」と反対。その後も話し合いは続きましたが折り合わず、修繕も滞りがちになりました。入居率が下がり、物件の市場価値も低下。最終的に弁護士を介した調停で売却が決まったのは、相続から10年以上が経過した後のことでした。

「最初から代償分割で一人が取得し、もう一人に現金を渡す形にしていれば」――ご相談時に長男さまがおっしゃった言葉が、今も印象に残っています。

3.2 二次相続で権利者が増え続けたケース

別のご相談では、祖父の代から共有名義のまま放置されていた土地が、相続のたびに権利者が増え続け、当事務所にご相談いただいた時点では共有者が8名になっていました。全員の合意を取り付けるまでに2年近くを要し、その間に相続税の申告期限も迫るという、非常に困難な状況でした。こうした「共有の連鎖」は、一度始まると解消が極めて難しくなります。

 

4. 共有名義を避けるための3つの選択肢

4.1 代償分割――一人が取得し、他の相続人に現金を渡す

不動産を一人の相続人が単独取得し、他の相続人には現金(代償金)を支払う方法です。不動産の管理・活用を一元化でき、将来のトラブルを防ぐ最も有効な手段の一つです。ただし、取得する側に相応の現金が必要になるため、資金計画を含めた事前の検討が欠かせません。

※実務上の注意点:代償金として交付する財産が「現金」ではなく「手持ちの他の不動産」などの場合、財産を渡す側に譲渡所得税が課税されるリスクがあります。事前の正確な税金シミュレーションが不可欠です。

4.2 換価分割:売却して現金で分ける

不動産を売却し、その代金を相続人で分ける方法です。「物件に思い入れがない」「相続人全員が現金を希望している」という場合には、最もシンプルな解決策となります。ただし、売却益が生じる場合には譲渡所得税が発生するため、税負担のシミュレーションが必要です。

※実務上の注意点:特に先祖代々の土地や古い物件の場合、当時の購入価格(取得費)が証明できず、売却金額の大部分が「利益」とみなされて譲渡所得税が予想以上に高額になるケースがあります。売却前の検証が極めて重要です。

4.3 家族信託を活用した柔軟な承継設計

近年、注目を集めているのが「家族信託」の活用です。不動産の管理・処分権限を信頼できる家族(受託者)に委ねつつ、収益の受益権を複数の家族に持たせることができます。これにより、前述した「共有者の認知症による資産凍結」を防ぎながら、実質的な経済価値の「平等」を実現できる非常に柔軟な仕組みです。設計には高度な専門知識が必要ですが、不動産オーナーさまの相続・認知症対策として極めて有効な選択肢となります。

 

5. 「共有を解消したい」と気づいたときの対処法

5.1 共有物分割請求とは

すでに共有名義になってしまっている場合、共有者の一人が他の共有者に対して「共有状態の解消」を求める「共有物分割請求」という法的手段があります。協議で解決できない場合は、裁判所に調停・訴訟を申し立てることも可能です。ただし、この手続きは時間と費用がかかるうえ、物件が競売にかけられるリスクもあるため、できる限り話し合いで解決することが望ましいといえます。

5.2 弁護士・税理士の連携が不可欠な理由

共有解消には、法的手続き(弁護士)と税務上の検討(税理士)の両方が必要になります。たとえば、共有持分の売買や交換を行う際には、譲渡所得税の問題が生じます。また、解消の方法によっては、贈与税が課される場合もあります。「とりあえず弁護士に」「とりあえず税理士に」ではなく、両者が連携して対応にあたることで、税務リスクを抑えた最善の解決策を見つけることができます。

 

📌 不動産の共有名義に関するよくある質問(Q&A)

Q. 自分の「共有持分」だけであれば、他の共有者に内緒で売却することは可能ですか?

A. はい、法律上は自分の持分のみを第三者(専門の不動産業者など)に売却することは可能です。しかし、それを知った他の共有者(親族など)との関係は決定的に悪化し、結果として大きなトラブルに発展するケースがほとんどです。また、持分のみの売却は市場価値より大幅に安くなる傾向があります。トラブルを避けるためにも、必ず事前に専門家へご相談ください。

Q. 共有者の1人が認知症になり判断能力を失った場合、成年後見人を立てずに売却する方法はありますか?

A. 残念ながら、完全に判断能力を失ってしまった後では、成年後見人を選任する以外の方法は原則としてありません。成年後見制度を利用すると、裁判所の監督下に入るため、親族の意思だけで柔軟に不動産を売却することが非常に難しくなります。だからこそ、「まだ元気で判断能力があるうち」に家族信託や生前贈与などの手を打っておくことが極めて重要なのです。

 

まとめ|「平等」より「将来の安心」を設計する

相続において「平等に分けたい」という気持ちは、とても自然なものです。しかし、不動産の共有名義は、その善意を将来の大きな負担に変えてしまうリスクをはらんでいます。

大切なのは、目先の「1/2ずつ」という数字の平等ではなく、ご家族が10年後も20年後も笑顔でいられる「笑顔の平等」を設計することです。一次相続・二次相続、そしてご健在の間の認知症リスクまでを見据え、家全体の資産を最大化しながら、円滑に次の世代へ繋いでいくそれが、私が提唱する「繋ぐ相続」の形です。

共有名義のリスクは、問題が顕在化してからでは選択肢が大きく狭まります。「まだ先の話」「うちは大丈夫」と思っていても、早めにご相談いただくことで取れる対策の幅は格段に広がります。ご家族の未来のために、一歩踏み出してみませんか。

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【ご案内と免責事項】

本記事の内容は、執筆時点の法令・通達に基づいた一般的な情報提供を目的としております。

実際の相続においては、個別の事案(財産構成、親族関係、特例の適用要件等)により、税務判断や最適な対策は大きく異なります。

記事の内容には万全を期しておりますが、掲載情報の利用によって生じた損害等について、当事務所は一切の責任を負いかねます。

具体的な判断にあたっては、必ず事前に当事務所、またはお近くの専門家にご相談ください。

 

この記事を担当した税理士

宮本志穂税理士事務所

宮本志穂

保有資格
税理士試験官報合格:簿記論・財務諸表論・法人税法・所得税法・相続税法、宅建士

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