宮本志穂税理士事務所
宮本志穂
- 保有資格
- 税理士試験官報合格:簿記論・財務諸表論・法人税法・所得税法・相続税法、宅建士
2026年06月03日

相続税における最大の節税枠といえば、小規模宅地等の特例の「特定居住用宅地等」、すなわち自宅の土地を最大80%減額できる制度です。評価額1億円の土地が2,000万円として計算されるわけですから、その効果は他の節税手法とは比べものになりません。
しかし、この特例には「同居していたかどうか」「申告期限まで住み続けているかどうか」という判定基準があり、実務では想像以上に細かく確認されます。「当然使えると思っていたのに、税務調査で否認された」というケースも実際に起きています。
東京・日本橋を拠点に相続税申告と不動産税務を専門とする税理士として、8割減額を確実に適用するための判定基準を詳しく解説します。
・「自宅の相続税が80%引き」になる強力な特例:1億円の土地が2,000万円まで圧縮される、日本の相続税対策における切り札です。
・「住民票だけ同じ」は税務調査で100%否認:税務署は光熱費のメーター推移やスマートフォンの位置情報履歴(基地局データ)まで徹底調査するため、形だけの同居は通用しません。
・老人ホーム・二世帯住宅は事前の要件確認が必須:「入居前の要介護認定」の有無や、建物の「登記方法」一つで、特例が使えるかどうかが180度変わります。
・二次相続まで見据えた設計が不可欠:一次相続で配偶者が無条件適用することだけを追うと、二次相続で子供が引き継ぐ際に税負担が大幅に増加するリスクがあります。
小規模宅地等の特例には、大きく分けて3つの類型があります。
①自宅の土地(特定居住用宅地等):330㎡まで80%減額
②事業用の土地(特定事業用宅地等):400㎡まで80%減額
③貸付用の土地(貸付事業用宅地等):200㎡まで50%減額
本稿では、最も活用される機会が多く、かつ判定が複雑な「①特定居住用宅地等(自宅の土地)」を中心に解説します。
国税庁が発表している「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、相続財産の金額構成比において「土地」と「建物」を合わせた不動産は全体の約3割から4割を占め、現金・預貯金等と並ぶ最大の財産となっています。これほど大きなウエイトを占める不動産だからこそ、その評価額を8割下げられる本特例の成否が、税額の総額を決定づけると言っても過言ではありません。
特定居住用宅地等の特例を適用できる相続人は、次の3つに限られます。
①被相続人の配偶者
②被相続人と同居していた親族
③被相続人と別居していた親族で、一定の要件を満たす者(いわゆる家なき子)
このうち最も確実かつシンプルに使えるのは「①被相続人の配偶者」です。配偶者は無条件で特例を適用できるため、二次相続の設計においては配偶者が土地を取得するかどうかが節税上の重要な判断ポイントになります。
「同居していた」かどうかは、住民票の住所が同じであるかどうかだけで判断されるわけではありません。税務上の「同居」とは、生活の本拠が同じであること、すなわち実態として日常生活を共にしていたかどうかが問われます。住民票は判断材料の一つにすぎず、実際の生活実態が重視されます。
よくあるのが、子が単身赴任中に親が亡くなったケースです。この場合、赴任先に住民票を移していても、「転勤という一時的な事情で別居しているが、生活の本拠は親の家にある」と認められれば、同居親族として特例を適用できます。ただし、赴任期間の長さ・帰省の頻度・家族の居住状況などが総合的に判断されます。10年以上の単身赴任で帰省もほとんどなかったという場合は、否認されるリスクが高くなります。
二世帯住宅の場合、以前は「内部で行き来できる構造であること」が同居の条件でしたが、平成25年度の税制改正により要件が緩和されました。現在は、構造上のつながりがなくても(外階段のみで独立している場合など)、建物が「親の単独名義」や「親子での共有名義」であれば、一棟全体が「同居」として特例の対象になります。
一方で、最も注意しなければならないのが、「区分登記(1階と2階を別々の不動産として個別に登記すること)」されているケースです。この場合、たとえ内部で行き来ができたとしても、原則としてお子さまの居住部分に対応する敷地については特例の適用が認められません。
すでに区分登記されている物件で敷地全体の8割減額を勝ち取るためには、相続が開始する前に登記を一本化(合体登記)するなどの専門家のアドバイスのもと対策が必要となります。二世帯住宅については、登記がどのようになっているか、事前の確認が不可欠です。
近年、特に問題になるのが、被相続人が相続開始前に老人ホームや介護施設へ入居していたケースです。原則として、入居前に被相続人が住んでいた自宅の土地については、一定の要件(要介護・要支援認定を受けていること、自宅を賃貸・売却していないこと等)を満たしていれば、入居後も特例を適用できます。ただし、「施設に入ったまま自宅を賃貸に出していた」という場合は適用できないため注意が必要です。
ここで留意したいのが、「老人ホームへ入居する前に」要介護・要支援の認定を受けている必要がある点です。お元気な状態で施設に入所し、入所した後に体調を崩して介護認定を受けた場合、この特例の「老人ホーム入居の特例」を満たさず、8割減額が一切使えなくなってしまうという非常に厳しい実務上の罠が存在します。
同居親族が特例を適用するためには、相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)まで継続してその土地に居住していることが必要です。申告期限前に引っ越してしまうと、特例の適用を受けることができません。「相続した家に住むつもりはなく、すぐに売って現金化したい」という場合は、特例の恩恵を受けられないことになります。
居住継続に加え、相続した土地を申告期限まで売却せずに保有し続けることも要件です。居住と保有、両方の継続が求められる点を忘れないでください。例えば、申告期限の直前に売買契約を締結した場合でも、引き渡しが申告期限後であれば問題ないとされるケースもありますが、判断が微妙なケースは専門家への確認が不可欠です。
転勤・療養・介護など、やむを得ない事情で申告期限前に転居せざるを得ない場合もあるかと思います。こうした場合でも一律に特例が否認されるわけではなく、事情の内容や転居後の土地の利用状況などを踏まえた総合的な判断が行われます。「引っ越しが避けられない」という状況が生じた場合は、早めに税理士へご相談ください。
節税目的で、実際には別々に生活しているにもかかわらず住民票だけ親の家に移しているケースは、税務調査で真っ先に疑われます。調査では、単に書類を確認するだけでなく、「冬場のガス使用量が一人分(親の分)のレベルではないか」「エアコンを多用する夏場に、子の部屋の電気メーターが全く動いていないのではないか」といった、季節ごとの光熱費の使用推移まで徹底的に分析されます。さらには日用品の購入履歴、スマートフォンの位置情報履歴(基地局データ)まで照会をかけられるため、住民票の異動だけの「偽装同居」は通用しません。
万が一、ここで特例が否認されると、前述のとおり1億円の土地であれば、差額の8,000万円に対して丸々相続税が課税されることになります。資産規模によっては数千万円の本税が増額となり、さらに過少申告加算税や延滞税といった重いペナルティが課されることになります。
被相続人の死亡が近づいてから急いで同居を始めたケースも、税務署は厳しく見ます。同居の開始時期・経緯・その後の生活実態が詳細に確認されます。「相続開始の数週間前から住み始めた」という場合は、生活の本拠としての実態があったかどうか、客観的な証拠をもって説明できるかが問われます。
被相続人が老人ホームに入居した後、空き家になった自宅を賃貸に出していた場合、特定居住用宅地等としての特例は適用できません。「空き家のままにしておくのはもったいない」という気持ちは理解できますが、賃貸に出した時点で「居住用」の要件が崩れてしまいます。老人ホーム入居後の自宅の活用方法は、相続税への影響を踏まえて慎重に判断する必要があります。
小規模宅地等の特例は、一次相続(配偶者が存命のケース)と二次相続(配偶者も亡くなるケース)の両方を見据えた設計が重要です。
一次相続で配偶者が土地を取得すれば無条件で特例を使えますが、二次相続では配偶者がいないため、同居の子が取得するか家なき子特例を使うかというより複雑な判断が必要になります。「一次相続で最大限節税する」ことだけを追うと、二次相続で逆に子供たちの税負担が跳ね上がり、トータルで大損をするケースも少なくありません。
一次相続・二次相続の税負担を合算してトータルでシミュレーションし、家族全体として最も有利な分割方法を設計する。これが、当事務所が提唱する「繋ぐ相続」の視点から考える特例活用の姿です。
| Q. 親と一緒に住むために実家を「二世帯住宅」に建て替えようと考えています。将来、この特例(8割減額)を確実に使うために、建物の登記で気をつけることはありますか?
A. 建物の登記を「区分登記(1階は親名義、2階は子名義のように別々の不動産として登記すること)」にしないことが、極めて重要なポイントとなります。 平成25年の税制改正により、外階段のみで内部の行き来ができない構造であっても、一棟の建物として特例が使えるように要件が緩和されました。しかし、建物が「区分登記」されている場合は話が別です。区分登記されている二世帯住宅では、原則としてお子さまの居住部分に対応する敷地について、特例の適用(8割減額)を受けることができません。 将来の節税効果を確実にするためには、建物を「親の単独名義」にするか、親子での「共有名義(一棟の建物を親子で共有する形)」にしておくことが、税務上最も安全な設計です。 なお、すでに区分登記で建ててしまっているご家族の場合でも、ご生前に登記を一本化(合体登記)することで、将来特例を適用できるように対策できるケースがありますので、設計段階で一度、当事務所へご相談ください。 |
| Q. 父親が亡くなり、同居していた私が自宅の土地を相続することになりましたが、相続税の申告期限(10か月)を待たずに仕事の都合で転勤になりそうです。特例は諦めるしかありませんか?
A. 諦める必要はありませんが、慎重な手続きが必要です。会社からの「辞令」による単身赴任など、本人の意思に反したやむを得ない事情による転居である場合、家族(配偶者や子)がその自宅に残り、申告期限まで居住を継続していれば、生活の本拠はそこにあるとみなされて特例が維持されるケースがあります。ただし、全員で引っ越して空き家にしてしまうと完全に否認されます。状況によって判断が分かれるため、辞令が出た段階ですぐにご相談ください。 |
小規模宅地等の特例(特定居住用宅地等)の80%減額は、相続税対策の中で最も効果が大きい制度の一つです。しかし、「同居していれば自動的に使える」という単純なものではなく、生活実態・建物の構造・申告期限までの居住継続、そして二次相続への目配りなど、多くの要件を正確に確認したうえで適用を判断する必要があります。
税務調査では、住民票だけでなく、光熱費の推移やスマホの位置情報にまで踏み込んだ緻密な実態調査が行われます。目先の数字だけで遺産を分けて満足するのではなく、ご家族が10年後も20年後も笑顔でいられる「将来の安心」を設計すること。それこそが、確実な節税を勝ち取るための唯一の道です。
当事務所では、相続税申告の前に同居・維持の要件を一つひとつ丁寧に書類ベースで確認し、最大限の節税効果を実現するサポートを行っています。「自分のケースで8割減額が使えるか確認したい」「二次相続まで見据えた最適な分割を知りたい」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。
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